財団法人石井記念愛染園は1917年に設立されました。前身となる託児所、夜学校を開設した石井十次の遺志と理念を受けて、大原孫三郎が創設したものです。大原孫三郎は、当時の倉敷紡績の経営者であり、岡山県倉敷市にある大原美術館の開設者としても知られています。当園は、公的な社会保障制度が未整備な時代に、大阪の地に社会福祉の先達となり、すでに100年を超える歴史を有しています。長く事業を継続することができていますのは、携わってきた先輩諸氏の多大な尽力に加えて、地域社会の皆様のご支援、ご協力あってのことと、改めて感謝申し上げます。

 現在、石井記念愛染園は、医療事業、隣保事業、介護事業の3事業を運営しています。医療事業として愛染橋病院は、大阪南部地区の総合周産期医療の基幹施設であるとともに、浪速区を中心とした地域医療に携わっています。隣保事業は、浪速区、西成区、住之江区において、4カ所の保育園、今池こどもの家、愛染橋児童館、西成市民館を拠点として活動しています。介護事業は、浪速区と西成区で特別養護老人ホーム、グループホーム、訪問介護センター、デイサービスステーションの各施設を展開しています。3事業の運営における理念は、石井十次の掲げた「隣人愛」です。地域社会で役割を果たせ、必要とされる組織、施設であり、従事する職員が働き甲斐を感じる組織でありたいと思います。

 社会福祉事業は理念なくしてはできません。また、経済的基盤なくしてもできません。情熱溢れる行動家で理想主義者の石井十次は、篤い支援者であった大原孫三郎に対して「もっと信仰を」と望み、同じキリスト者であるとともに合理主義者でもあった大原孫三郎は石井十次に対して「もっと数字を」と願っていたと伝わっています。現在の当園においても、この二人の想いは課題として継続していると思います。愛染園の3事業はいずれも営利を追求するものではありません。しかし、各事業が理念を実現し、社会貢献を続けていくためには、適正なレベルの利益を上げ、将来に向けて資産、資金を蓄えておくことが大切であると思っています。しかしながら、少子高齢化の進行が加速されるなど各事業を取り巻く環境は益々厳しくなっています。艱難を糧にして精進に励んだ石井十次、勘定を合わせながら理念追求を続けた大原孫三郎に倣いながら、高い理念を掲げるとともに、足許を固めて3事業の継続、発展を図っていきたいと願っております。
今後とも変わらない皆様のご支援、ご協力をお願い申し上げ、ご挨拶と致します。

令和3年6月